パスタ料理全てに共通する基本。
その流れを、まずはステップごとに、重要なポイントを確認してみましょう。
どんな料理を作るか考え、一連の流れをイメージする
これが最初のスタートです。
「料理」をすることに慣れて来ると、冷蔵庫を開ければどんな料理が作れるかが、幾通りも思いつくようになるでしょう。
パスタ料理には、「工程」があります。
その工程を覚えることが出来れば、まるでパズルのように自分でレシピを組み立てることが出来るようになるのです。
慣れないうちは、もちろんレシピ本を読んでも、テレビ番組をヒントにしてもかまいません。
作る料理を決めたら、大切なことが一つあります。
それは、【 調理の流れを一度頭の中にイメージすること 】です。
料理教室で講師をすると、「自分は料理が苦手だ」という人の多くが、この作業をやっていません。
レシピ本に手順が①~⑩まであるとすると、ロクに読むことなく①から順に作業を進めてしまうのです。
料理は一連の流れであり、一つ一つの作業には必ず意味があります。
手順③が手順⑥のための下準備なら、③は⑥の効果が最大になるように行われるべきです。その準備・片付け・配置が全て意味を持ってきます。
頭の中に流れがあるので、③の作業を行いながら、並行して④の準備を進めることが出来ます。
また、手順⑤が、煮込みのように時間がかかる作業なら、その間にサイドメニューを一品作ることが出来るかもしれません。結果的に、時間配分も効率化することが出来ます。
このように、料理の流れが頭の中に入っていれば、「料理A」の③の作業をしながら④の準備をし、並行して「料理B」の⑤と、「料理C」の⑦を行うといったことが出来るようになるわけです。(我々プロの料理人の仕事は、こういう内容です。)
まずはレシピがあるならレシピを最後までしっかり読んで、作業の流れをイメージしてみてください。
これが出来るようになると「手際が良い」、「料理が出来る」と思われるようになってきます。
材料の下準備
「料理が苦手」という人に共通する要素としてもう一つ、「下準備をしっかりしないまま料理に入る」ということがあります。
下準備というのは具体的に言うと、材料を用意する、計量する、必要があれば適切な形状に切ったり下茹でなどの仕込み作業を行っておく、ということです。
「どんな料理を作るか考える」の項目でも述べた「流れのイメージをする」と重複する部分もありますが、
下準備が出来ていないと、作業がいちいち中断したり、失敗のリスクが増えてしまいます。
すごく分かりやすい例を挙げると、「ニンニクをオリーブオイルでソテーし、色づいたらAを入れる。」という工程で、Aの準備が出来ていなかったため、あたふたしているうちにニンニクが焦げてしまう。といった失敗です。
パスタ料理は特に、スピード感がとても重要です。
ソースを作る際に、火を入れたい素材もあれば、火をあまり通したくない(生の食感を大事にしたい)素材もあります。
ソースの出来上がるタイミングに合わせてパスタを茹で上げ、両者を絡めたらスムーズに盛り付けて仕上げないと、せっかくアルデンテに茹でたパスタも台無しです。
慣れて来ると作業をしながら必要な食材を随時準備していけるようになりますが、そうでないうちは、必要な材料はあらかじめ全て下ごしらえをし、計量が必要な材料は全て計っておくといいでしょう。
「めんどくさい」と思うかもしれませんが、結果的にバタバタやるよりこれが一番めんどくさくならない方法です。
パスタソースを作る
パスタ料理において主役は何かといえば、もちろんパスタ(麺)です。
「パスタを美味しく食べるために、美味しいソースを作る」というのが、「パスタ料理」を作る上で大前提となる考え方です。
※よく誤解されていることがあるのですが、主役は「具材」ではありません。
例えば「太刀魚のスパゲッティーニ」という料理があったとして、この時考えるのは、「太刀魚でいかに旨いソースを作って、スパゲッティーニに絡めるか」です。言い換えれば、太刀魚(具材)の旨みをソースに移す、引き出す、溶け込ませる、ということです。
食べる時に具材として美味しいことは勿論重要な要素ではありますが、それ以上に、美味しいソースを作ることの方がパスタ料理としては正しい方向性です。
極論ですが、「太刀魚」の美味しさを純粋に楽しみたいのなら、塩焼きにすれば良いのです。
「パスタ料理」にするからには、あらゆる具材・素材は、パスタを美味しく食べるための存在であるべきです。
それらの具材が正しく理想的に機能した時、名優が助演をした映画のように、脇役であるはずの具材は、時に主役であるパスタを超えるほどの魅力を放つでしょう。
パスタを茹でる
パスタの茹で方にはポイントが5つあります。
「茹でる湯の量」「湯に入れる塩の量」「茹でる温度」「パスタのかき混ぜ方」そして「茹で上げるタイミング」です。
「茹でる湯の量」は、多い方が望ましいです。料理本などを読むと、一応の目安として「茹でるパスタの10倍」(つまり100g茹でるなら1リットル)というのがあります。
ただ普通の家庭では、「じゃあうちは6人家族だから、6人前で600gの10倍で6リットル・・・って、そんなの入る鍋無いわ!!!」ってなるでしょうから、ある程度の目安で結構です。理想は2 or 3人前づつ分けて作ることですけどね。
「湯の量が多い方がいい」理由は、多い方が温度が下がらないからです。少ない湯に多量のパスタを入れてしまうと、温度が一気に下がってしまいます。小麦のタンパク質は75℃前後で熱変性を起こして凝固するため、高い湯温であれば短時間でパスタの表面を固めることが出来ます。そうするとパスタの表面にタンパク質のコーティングが生まれるので、パスタの旨み成分を閉じ込めておけるのです。かなおかつ、高温で加熱することにより、速やかにデンプンが糊化(α化)し、コシと共にもちもちとした食感を生み出します。低い温度でパスタを茹でると、全体にコシの無い、ぶよぶよとしたパスタになってアルデンテには仕上がりません。
また、湯が少ないと、パスタ(麺)がくっつくのを防ぐために過剰にかき混ぜる必要があり、パスタの表面を傷めてしまうことにも繋がります。
「湯に入れる塩の量」は、湯量の1%が目安です。つまり1リットルの湯なら10g。普段適当に塩を入れているひとは、計ってみると意外に多いことに驚くと思います。
パスタを茹でる際、この塩が果たす役割は非常に重要です。その役割は3つ。
一つは、麺に下味を付けること。
もう一つは、沸点の上昇をさせることで、より高温でパスタを茹でられること。高温でパスタを茹でる意味は、前述のとおりです。
最後に、パスタのデンプン質の熱変性を助ける役割を果たすことです。
※ ただ、ソース自体の塩加減が強い場合は、塩の分量を調節してもいいと思います。
「茹でる温度」
パスタを茹でる温度で重要なことは、「きちんと沸騰した湯で茹でる」という一点です。
パスタを投入後は、過剰に強火でグラグラと煮立たせる必要はありません(パスタが痛んでしまいます)。
沸騰状態が保たれる程度の火加減を保つようにしましょう。
「パスタのかき混ぜ方」
パスタを沸騰した湯に入れたら、パスタ同士がくっつかないようにかき混ぜます。
この時、かき混ぜすぎてしまうとパスタの表面が傷んで、パスタのデンプン質が湯に流出してしまいます。かき混ぜる作業は最小限にして、あまりパスタを触らないようにしましょう。
お勧めは、
「湯に入れてすぐに軽く」と、「2分ほどしてパスタが柔らかくなったら一回」「4分ほどしてもう一回」の3回です。あとは茹で上がるまで放置してもパスタがくっつくことはありません。
「茹で上げるタイミング」
パスタを茹で揚げるタイミングは、一言でいうと「アルデンテの1分前」。
アルデンテとは、「芯にわずかな歯ごたえを感じる程度の、プツっと噛み味のある固さ」を意味します(もちろん好みの固さには個人差があります)。
茹で上げたパスタは、ソースと絡める際に、ソースの中の水分を吸ってしまいます。そのため、茹で上げの時点で最良の食感であるアルデンテで引き上げると、盛り付けて食べる時には「ボイルオーバー」状態になってしいます。
食べるときに一番おいしい状態になることを逆算し、最良の状態であるアルデンテより少し前に茹で上げるようにしましょう。
※ 因みに、茹でる鍋をシンク(流し)に空けて、ざる等で湯切りするをする場合は、空ける前にパスタの茹で汁を別の器に少し取っておくことを忘れないでください。パスタの茹で汁は、この後の工程「パスタとソースを合える」で、濃度調整に使用します。
パスタとソースを合える
ひと昔前、パスタ(特にミートソース)のイメージとしてあったのが、「茹でたパスタを皿に盛り、その上からソースをかける」というものでした。今もあんかけパスタなどではそういう調理もありますし、ご家庭ではわりとよく見るスタイルかもしれません。
ですが、パスタ料理の醍醐味は、ソースとパスタの一体感です。
是非、ソースを作った鍋でパスタを合えて頂きたいと思います。
プロのように、手際よく鍋を振らなくても大丈夫。
箸でぐるぐる混ぜるだけでも構いません。
取っておいたパスタの茹で汁でソースの濃度を調節しながら、乳化したソースをパスタに絡めると、ソースを乗せただけのパスタとはワンランク違ったものになるでしょう。
因みに、パスタの茹で汁には糊化したデンプン質が溶け出しており、これがソース中の油分を安定させて乳化を助ける役割を果たします。また、エクストラバージンオイルも、含まれているリン脂質が乳化剤として働いてくれるので、「ソースを合える最後にエクストラバージンオイル」を回しかけるのは、香りだけではなくソースとパスタの絡みを良くする効果もあります。
盛り付ける
「味さえよければOK」「お腹に入ってしまえば一緒」。
そう考える人ももちろんいますが、盛り付けが見た目が味に与える影響というのは現実として大きなものがあります。「先入観」といってもいいでしょう。人間の舌は、非常に先入観に騙されやすいものです(この辺りは、カリフォルニア大学などがワインの研究で沢山の論文を上げています)。
特に我々日本人は、「皿で食わす」とまで言われ、見た目の美しさも美味しさのうちと考える和食の感性を持っています。
単純に同じ料理を作ったとして、綺麗に盛り付けたら加点。汚い盛り付けなら減点されてしまうのなら、加点を狙いましょうという話。せっかく頑張って作ったんだしね。
具材の配置、麺の形、ソースの掛かり具合。是非、プロがやる綺麗な盛り付けをマスターして、美味しさで加点を稼ぎましょう。
+αの楽しみ方
パスタ料理は、それ単体で食べる場合もありますが、本来はコース料理の中の1品です。
前菜(アンティパスト)に続くプリモピアット(第一の皿)がパスタ料理。
その後にはメイン料理である肉料理や魚料理、セコンドピアット(第二の皿)が控えています。
余裕があるなら、パスタを少し軽めの量で作り、前菜やメイン料理を合わせるのも魅力的な楽しみ方。
メインとなるとご家庭では手間がかかりますが、前菜に生ハムや、モッツァレラとトマト・バジルを合わせたカプレーゼぐらいなら時間はさほどかかりません。
もちろん、ワインなどのお酒や、搾りたてのフレッシュジュースなど、飲み物も食卓の彩りには欠かせません。
(特にワインは西洋料理では「マリアージュ(結婚)」と表現されるほど、料理との相性に拘りを持たれる要素です)
テーブルをトータルで考えるようになると、パスタ料理も一層奥深いものになります。