作品とシーンについて

「ルパン三世 カリオストロの城」は、モンキー・パンチ原作アニメ『ルパン三世』の劇場映画第2作(1979年公開)。スタジオジブリが立ち上がる前の作品なので、厳密には「ジブリ映画」とは呼べないものの、宮崎駿氏の映画初監督作であることと、丁寧な作画やアクションシーンはその後のジブリらしさが存分に発揮されており、ファンからも「ジブリ映画の初代」として広く認められています。ラストシーンの「あなたの心です。(by 銭形警部)」はアニメ界に残る名台詞。

(自前ラテアート)

 

さて、今回再現する料理「ミートボールスパゲッティ」が出てくるのは、序盤で逃走中のルパンと次元がレストランで食事しながら会話するシーン。

 

レストランといっても、地元の人たちが気軽に使う、大衆食堂(居酒屋)といった風体のお店です。ここで大皿に盛られたスパゲッティを二人が取り合うコミカルな表現は、いかにも「ルパン」の世界。

 

 

 

料理についての考察

まずプロの料理人として検討することは、このパスタが作られている背景。

なぜならイタリア料理は地方料理の集合体なので、その料理が作られた地域性が非常に重要だからです。

 

作品関係者のインタビューや公式から出ている情報を元に、紐解いていきます。

 

■ 時代設定

1968年という設定が明らかになっています。つまりこの時代に手に入る食材で作る。

■ シーンの舞台

「城」そのものは、ドイツのリヒテンシュタイン城をモデルに作画されていると言われています。

 

しかし作品の舞台(今回のシーンの食堂含む)であるカリオストロ公国自体は、イタリアのサン・レーオ(San Leo)という街がモデルになっています。

場所はここ。イタリアを長靴で例えると、ふくらはぎ上部。

切り立った崖の上にサン・レーオ城(実際にアレッサンドロ・ディ・カリオストロという人が幽閉され獄死した)がある、中世の雰囲気を残した街です。

崖の中腹に街が見えます。

現在はエミリア=ロマーニャ州リミニ県に属していますが、2009年まではお隣のマルケ州に属していました(つまり、作品の時代設定である1968年時点ではマルケ州です)。ただ、リミニ県の食文化というのは伝統的にロマーニャ地方の料理の影響を強く受けている地域ですので、基本的には現在属しているエミリア=ロマーニャの料理をベースに考えて問題ないと考えます。

 

エミリア=ロマーニャは、生ハムやパンチェッタをはじめとする豊富な畜産物、グラナパダーノに代表されるチーズ類などが特産品です。特筆すべきはパスタの種類の豊富さで、南部のナポリと双璧をなすパスタ王国です。世界に知られるサルサ・ボロネーゼ(ミートソース)を生んだボローニャは、エミリア=ロマーニャの州都。

 

そういう意味では、伊勢丹でルパン三世展の公式が提供してたパスタもボロネーゼソースで作られており、これを反映してると思うのですが・・・

 

・・・いかんせん、見た目が違うんですよ!(笑)

 

また、シーンの舞台となっている大衆食堂は、どう見ても高級店ではないため、現地で簡単に手に入り、なおかつ高級ではない食材を使用していることが推察されます。

 

■ 料理の考察

まず目を引くのは、具材であるゴロゴロとしたミートボール。これはポルペッティーノ(単数形。複数形はポルペッティーニ)という、実はイタリアの伝統料理の一つです。大きなものはポルペッタ(複数形はポルペッテ)、小さなものがポルペッティーノと呼ばれますが、この辺りは厳密なサイズ規定があるわけではなく感覚的なものなので、作った人、見た人のネーミング次第です。

この料理の考案者はハッキリしていて、15世紀に活躍したマルティーノ・ダ・コモ(Martino da Como)という、当時イタリア随一と言われた伝説の料理人です。南イタリアのナポリから北イタリアのアクイレイア、さらにミラノへと、ほぼイタリアを縦断する形で活動しました。当時、遠くから取り寄せた食材を有難がっていた貴族達に地産地消の価値を提唱。その後のイタリア料理の道筋に大きな影響を与えたスゲェ人です。ポルペッタ(イタリア風肉団子)、フリッタータ(イタリア風オムレツ)、インヴォルティーニ(肉の野菜巻き)なんかは、彼が作った料理と言われています。

 

今回のパスタが、このポルペッタを小さくした「ポルペッティーノ」が具材となっていることは間違いないでしょう。これが、視認出来る範囲で片側に約11~12個。つまり皿全体で25個前後入っていると考えられます。

 

次はソースを見てみます。ロマーニャ地方のパスタの代表といえば、既に述べた通り、誰もが知っているボローニャのボロネーゼ・ソース。挽肉で作ったミートソースです。しかし、今回のパスタソースはボロネーゼ・ソースにみられるような挽肉のブツブツ感はなく、また、色も茶色より明るめです。

この事から、ソース自体には挽肉を使わず、ポルペッティーノをサルサ・ポモドーロで煮込んだ、ポルペッティーノ・アル・スーゴであると考えます。ただ、トマトソースのみを使った赤色ではなく、少し深めの茶色がかった赤であることを考えると、赤ワインも使ってボロネーゼと同じ赤ワイン煮込みに仕上げているのではないかと推察されます。緑色のものが見えますが、これは仕上げにかけたれたパセリだと思われます。

次に、パスタについてです。ポルペッティーノが、だいたい指2本分ぐらいの大きさ。直径3㎝ぐらいでしょうか。これに対してのパスタの太さを鑑みると、「わりと太い」と見ることが出来ます。

 

一般に、

スパゲッティーニの太さが1.4mm~1.6㎜。

スパゲッティーの太さが1.7㎜~2.0㎜

これを超えると、スパゲットーニと呼ばれることが多くなります。イタリアで最もシェアが高いバリラのスパゲッティNo.5は1.7㎜ですが、これより細いということはないでしょう(むしろ太い印象です)。

 

そして、長い(笑)!!!

どんだけ長いんだ。ゴムか!と突っ込みたくなるぐらいの長さと伸びです。これはまぁ、参考程度にしておきますが、長さは一応一つ案があります。

 

まとめると、

 

● 具材はポルペッタ(ポルペッティーノ)を25個前後。

● ソースは、ポルペッタをトマトソースと赤ワインで煮込んだもの。仕上げにパセリ。

● 太く長いロングパスタを使用

 

ということになります。

 

再現にあたって

このマルティーノ・ダ・コモの作ったポルペッタのレシピは、「仔牛の挽肉、牛乳に浸して古くなったパン、粉に挽いたチーズ、ローズマリー、刻んだパセリ、ニンニクを入れて捏ね、丸く成形したのち、鍋にたっぷりのオリーブ・オイルを入れて揚げる。 」というもの(そう弟子が記載しています)。

イタリアでは全土でポルペッタ(ポルペッティーニ)が作られていて、今でこそ牛だけではなく豚肉、鶏肉、合い挽き、さらには魚のミンチ(要は「つみれ」です)まで、様々な素材が使われていますが、そもそものレシピは牛肉(仔牛肉)です。実際、あちらでは今も昔ながらのポルペッタは牛肉で作ることが多いです(特に南イタリアはその傾向が強い)。今回テーマとしているルパン三世のパスタは大衆料理屋であることから、高価な仔牛肉ではなく普通の牛挽肉を使って再現します。また、エミリア=ロマーニャという地域性を考慮し、現地のポルペッティーノのレシピにある、地域食材であるパンチェッタを刻んで混ぜ込む方法を採用します。

使用するチーズは、エミリア=ロマーニャの特産チーズであるグラナパダーノ・チーズ。これを粉にした「グラナパダーノ・パウダー」を使います。

 

 

煮込みの際に使う赤ワインは「キャンティ」。エミリア=ロマーニャと隣接しているトスカーナ州のワインです。最近は減ってきましたが、伝統的な藁包みの瓶でも有名です。

まさに作中、テーブルに置かれているワインですね。おそらく、このレストランでは、お客さんがボトルの中に飲み残したワインを煮込みに回したりなんかしているのかな、と思ったりします(笑)

 ↑

今の日本でやると、「飲み残しを使いまわすなんて!」と怒る人もいそうですが、あっちでは当たり前にやります。口を付けたものを再利用しているわけではないですし、単純に捨てるのは勿体ない! 後で出てきますが、「余ったパンをパン粉にして使う」のも同じ理屈です。

高級店ではないので、キャンティの上級銘柄であるキャンティ・クラシコなどではなく、もちろん通常のノーマル・キャンティです。

 

さて、肝心のパスタのチョイスですが、エミリア=ロマーニャといえばバリラ・・・と言いたいところですが、今回、もっと最適なパスタを思いつきました。それがこちら、「グラニャネージ  スパゲッティ・アッラ・キタッラ」。

 

 

 

「アッラ・キタッラ(キタッラ風)」の名の通り、断面が若干四角気味です。

1834年創業の歴史あるパスタメーカーです。

ブロンズダイス成型で低温長時間乾燥。昔ながらの味わいを目指して、36度での一次乾燥と、46度での二次乾燥に約3日かけるこだわりよう。効率を重視した最新の高温乾燥機を使用したパスタのように、小麦粉のグルテンに火が入ることの無い状態で仕上がるため、茹でた時のもっちりした食感が特徴的。

卸売り業者さんのコメントは「同じロング系の乾燥パスタを使うなら、これを使えば”どんな人にも感動を与えることができる”そんなパスタです」。攻めてますね(笑。

 

そしてもう一つこのパスタを選んだ理由が、太さと長さ。太さは「太めのロングパスタ」の条件をクリアしています。そして長さが・・・

 

U字になっているので、つまり通常の倍の長さです(下写真の上が通常のスパゲッティ、下が今回使用するパスタ)。

 

これは昔ながらの手法で作るがゆえにこうなるのですが、つまりパスタを乾燥させる際、棒に引っ掛けて乾燥させてるんですね。

つまりこういうことです

 

この状態で乾燥させるので、そのままこの形になるわけです。通常はU字になった所で折って茹でれば普通の長さのスパゲッティになるわけですが、今回はこれを折らずに使用します。

 

量は二人分で300g。イタリアにおける昔ながらのシェアサイズです。

 

他に候補として、僕が愛してやまないラ・ファブリカのスパゲッティ 1.9㎜も考えたのですが、ラ・ファブリカは1976年創業。作品の時点ではまだ出来ていないため却下しました。(同様の理由で、コルンブロ社なんかも却下です)

作ってみよう


【レシピ】

・ポルペッティーノ

牛挽肉: 300g

パンチェッタ:30g(細かく刻む)

パン粉:30g

牛乳:30ml

粉チーズ(グラナパダーノ):100g

ローズマリー、パセリ:適量(刻んでおく)

ニンニク:2片(みじん切り)

塩:3g(小さじ 1/2)

胡椒:適量

・ソース

オリーブオイル:適量

赤ワイン(キャンティ):100ml

サルサ・ポモドーロ(トマトソース):350g

※ 基本のトマトソースの作り方はそのうちアップ予定。

・パスタ(グラニャネージ スパゲッティ・アッラ・キタッラ)… 300g

・仕上げ

グラナパダーノパウダー:モンテ用20g、トッピング用10g

バター:20g(モンテ用。冷たいバターを使うこと)

パセリ:適量

 


① ポルペッティーノを作る。

材料を全てボウルに入れ、よく混ぜる。

空気を抜いてから、指2本分のサイズ(直径3㎝)の団子状に成型する。

15分ほど冷蔵庫で休ませてから、強力粉をまぶす。

 

② ポルペッティーノを揚げ焼きにする。

オリーブオイルを熱して、ポルペッティーノに強力粉をまぶして転がしながら色よく揚げ焼きにする。

焼けたら一旦取り出す。

③ パスタソースを作る。

・ ②のフライパンの余計な油を捨てる。

・赤ワインを加えて、鍋底を綺麗にこそげ落とす(デグラッセ)。

・ ポルペッティーノを戻し入れ、サルサ・ポモドーロ(トマトソース)とパスタの茹で汁100mlを加えて、蓋をして10分ほど弱火で煮込む(煮詰まりすぎて焦げ付きそうなら水を足す)。

④ ソースの仕上がりに合わせてパスタを茹でる

1%濃度の塩水でパスタを茹でる。

⑤ パスタとソースを合える。

ポルペッティーノを一旦取り出してから、茹で上がったパスタとソースを合える。

塩・胡椒で味を調え、グラナパダーノとバターを加えて乳化させたら皿に盛り付ける。

 

ポルペッティーノを散らしたら、仕上げにグラナパダーノとパセリを振って完成。

 

実食

色も、かなり忠実かと思います。

 

そして、この長さ(笑)。

 

ポルペッティーノは牛肉のジューシーさとパンチェッタの濃い旨みがたっぷり。これがソースに溶け込んで一体となった美味しさがパスタに絡んでいます。

これは取り合いますね。(2人前にしては多いですけどね)

 

ご家庭で、より簡単にアレンジするなら、

牛肉 → あらびきミンチ

パンチェッタ → ベーコン

で問題ありません。パスタはぜひ太めのものを。

 

 

こちら、一連の再現をまとめた動画です。ご覧ください。